新年のご挨拶(2024年1月吉日)

令和6年1月4日


駐オーストリア特命全権大使兼欧州安全保障協力機構(OSCE)日本政府常駐代表
水内 龍太
 

 

「下記新年挨拶の上梓を終えた後の令和6年元旦、能登半島を中心に大きな地震が発生しました。この震災により大きな被害に遭われた被災地の皆様に衷心お見舞いを申し上げるとともに、失われた尊い命に心から哀悼を捧げます。また、オーストリアを始め多くの国・国際機関の方々からいただいたお見舞いに心から感謝申し上げます。陰ながら一日も早い復興をお祈りします。」 
 

 
 令和6年(きのえ)(たつ)新春にあたり、謹んでお祝い申し上げます。

 昨年年頭の挨拶は、私の着任挨拶を兼ねたものでした。駐オーストリア日本国大使として、早くもまる一年奉職させていただいたことになります。この一年、多くの方々とともに、日オーストリア関係の発展のために尽力できましたことを欣ぶとともに、皆様の御支援・御協力に心より感謝いたします。

 皆様も感じられたとおり、長いコロナ禍が明けたことで、経済・社会のすべての活動がフルスロットルで再開したように感じられます。そのお陰もあり、外交面でも活発な交流がありました。4月には墺日議連の訪日、5月には岡田万博大臣の来訪、夏には日本から参議院の代表団が議会間交流のために来訪、9月にはエトシュタドラー首相府大臣が訪日しました。この間、6月には3年ぶりに外交当局間の政治対話も行われ、11月には山梨県で25回目の将来の課題のための日・オーストリア委員会会合も開かれました。
 
 昨年は、ウィーン万博150周年と来年予定されている大阪・関西万博で盛り上がってくれたことも特筆されます。
 150年前のウィーン万博関連の行事がたくさん催されたことで、日本酒、立礼式茶道、更には大豆がこの時に日本代表団によって欧州に初めてもたらされたことを知ることができました。大阪・関西万博については、準備が遅れていることでオーストリア政府には迷惑をかけましたが、オーストリアの万博チームは一貫して前向きに取り組んでくれました。そのお陰もあり、このたびパビリオンの建設交渉が成立し、近々建設工事も始まるものと思われます。大阪の地で日本とオーストリアの未来が奏でられる(“composing the future”(オーストリアの万博コンセプト))ことを楽しみにしています。
 
 コロナ禍の終焉が姉妹都市交流を再活性化させてくれたことも嬉しい出来事です。4月の葛飾区代表団を皮切りに、安曇野市、南魚沼市等から大勢の皆様がオーストリアに来られ、パートナーの市民と熱い交流をしてくださいました。花巻市、那須塩原市、奥州市、東京都荒川区からは中高生が来訪し、若い世代間の交流も活発に行われました。外交は政府間だけで成立するものではありません。双方の多くの市民に支えられている日オーストリア関係は、非常に幸運なケースだと思います。各市町村の納税者の負担も少なくないと思うが故に、市民一人一人の皆さんの努力に敬意を表さないわけにいきません。同時に、市長さん、区長さんが率先して市民外交をリードしてくれることのありがたさ貴重さを、ネット民や批判者にも是非判っていただきたいと切に希望します。

 私が学生時代にボートを漕いでいた琵琶湖とオーストリアの形が瓜二つであることが縁になって、滋賀県とブルゲンラント州の交流が始まったことも、旧琵琶湖「湖民」として、嬉しい限りです。この関連で、ウィーンが世界初公開となった武内英樹監督の「翔んで埼玉II琵琶湖から愛を込めて」の大ヒットを心からお祝い申し上げます。

 世界情勢に目を転じると、ロシアによるウクライナ侵略はウィーンを舞台とするOSCEにも影を落としました。私は、G7議長国としての様々なイニシアティブを、このような時にこそOSCEの場で発信するよう努めました。オーストリアその他欧州の参加国、アジアのパートナー諸国からは評価されたものと考えます。

 ウクライナにおける戦況に加え、ハマスというテロリスト集団の攻撃・拉致に端を発するガザ情勢も、世界情勢に益々不透明感を与えています。本年も、日本外交の真価が問われることでしょう。その中で、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向けて、価値を共有する重要なパートナーであるオーストリアとの国際場裏における協力が重要です。

 来年の大阪・関西万博の開催に向けて、オーストリア連邦産業院が様々なイベントを用意してくれており、特に経済面での日オーストリア関係を更に深めていく所以としたいと思います。昨年の未来課題のための日オーストリア委員会会合では脱炭素化や水素技術という最先端のテーマが両国の専門家の高い関心を惹きました。このような点を含め、経済安全保障の面やサプライチェーンの確保において、両国経済とビジネスのさらなる連携に貢献できれば幸いです。なお、中国による不当な日本産海産物の輸入禁止は、安全で美味しい日本の海の幸の欧州への輸出ルートを創る好機です。日本産酒類のプロモーションも含め、今年も皆さんと協力したいと思いますので、宜しくお願いします。

 最後に文化について触れると、今年はウィーン学派の巨匠アーノルト・シェーンベルクの生誕150年に当たるそうで、ユダヤ人を研究対象にしていた私としては、少し注目しています。昨年の久石譲さんや奈良美智さんに続いてどんな日本のアーティストがウィーンに来てくれるかも楽しみにしています。当地の若い日本のアーティストの支援も続けていくつもりです。昨年の自衛隊記念日レセプションでジブリの曲を演奏してもらったことが、外交団で大評判になりました。日本のポップカルチャーを梃子に、日オーストリアの若い世代を交流の中心にすることで、当地の日本人社会やオーストリアの日本ファンの持続的な強化に努めてまいる所存です。
 
 十干の最初(甲)の辰の年は、殊に勢いが増す機運を伴うそうです。皆様にとり本年がその辰のように勢いある年になること、さらに皆様の益々の御多幸を祈念いたします。

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[1]日本・オーストリア姉妹都市一覧 
本稿で言及する姉妹都市:葛飾区-フロリッツドルフ(ウィーン21区)、安曇野市-クラムザッハ(チロル州)、南魚沼市-ゼルデン(チロル州)、花巻市-ベルンドルフ(ニーダーエスタライヒ州)、那須塩原市-リンツ(オーバーエスタライヒ州)、奥州市-ロイッテ/ブライテンヴァンク(チロル州)、荒川区-ドナウシュタット(ウィーン22区)
[2]葛飾区長および葛飾区議会議長をはじめとする葛飾区友好訪問団の大使館訪問(2023年4月18日)

[3]葛飾区・フロリッツドルフ区交流記念イベント・レセプションの開催 (2023年4月18日)
[4]水内大使による長野県安曇野市長ほかとの意見交換(2023年9月29日)
[5]南魚沼市派遣団一行による大使表敬(2023年11月13日) 
[6] 岩手県花巻市青少年派遣団の当館訪問(2023年11月6日)
[7] 栃木県那須塩原市の青少年派遣団の当館訪問(2023年10月10日)
[8] 岩手県奥州市の青少年派遣団による当館訪問(2023年8月22日)
[9] 東京都荒川区青少年交流派遣団の在オーストリア日本国大使館訪問(2023年8月3日)
[10] 水内大使のブルゲンラント州訪問(2023年11月6日)


 

(日本人会会報 令和6年1月号掲載)